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病院通信2020年10月号 白衣の奥に秘めた思い

2020.10.15

市民病院の印象と現実

「市民病院の医者は態度も腕も悪い」「市民病院にかかったら病気が悪化した」「市民病院は治療を長引かせるだけで全然良くならない」――。こんなうわさを聞いたことはありませんか。いつ、誰が言い出したかも分からないうさわによって、市民病院やそこで働く職員が正しい評価をされていない現実があります。市民病院がこの地域で果たす役割は決して少なくありません。2次救急病院として、毎日多くの救急患者を受け入れています。災害拠点病院として、災害時にも医療を提供し続けます。災害派遣医療チーム(DディーマットMAT)を大規模災害の被災地へ派遣し現地の医療を支援します。また、研修医の教育機関である臨床研修病院として、医師免許を取ったばかりの研修医をスタッフ全体で支え、育てています。

職員の思いを知ること

市民病院で働く職員は、不安や悩みを抱えながらも、前向きに医療に従事しています。その頑張りを正しく評価するには、事実を知ることが必要です。医療の最前線で働く医師や看護師が置かれている現状やその思いを知ることが、私たちに求められています。

医師の集中と医師不足

厚生労働省の統計では、全国の医師数は毎年約4000人ずつ増えています。しかし、全ての病院に均しく医師が配置されてはいません。都市部への医師の集中が問題になっており、その問題を解消するため、行政や大学などが検討を重ねています。医師不足は市民病院が抱える大きな課題です。国や県などの政策以外にも、医師の研修制度や「大学医局」と呼ばれる組織が行う医師の人事異動も市民病院の医師数に関係しています。また、平成30年から新しい専門医制度が始まりました。消化器外科や整形外科、循環器内科といった専門医の資格を得るには、大学病院などで数年間の研修を受けなければならなくなり、これまで以上に大規模病院に医師が集まりやすくなりました。市民病院に勤務する多くの医師は、自身の進む道を考えながら、大学医局の人事異動や専門医の研修のため別の病院へ移っていきます。ですが、市民病院で勤務している期間は、この地域の医療を支えるため全力を尽くしてくれています。

努力する医師 信頼してほしい

市民病院の医師数は少しずつ増加しています。主な要因は研修医が増えたこと。奨学金制度の存在も大きいですが、地道に研修医の教育、確保に努めてきた成果が実り始めています。 新しい専門医制度は、大学病院などの大規模病院でなければ研修ができません。一定期間は他の関連病院での研修が必要で、当院のような中規模の病院に研修の一貫として、何か月か医師が来ることもあります。しかし、期間が過ぎれば他の病院に異動してしまい、その後、同様に研修に来てもらえるとは限りません。安定的に医師を確保するには、大学医局から医師を派遣してもらうことが必要です。 日本の医療は諸外国と比べて「安価で質が高い」といわれています。医療保険制度があることも大きいですが、質の担保は医師の自己犠牲の上に成り立っている部分もあります。質の担保といえる専門医の取得は義務ではありませんが、多くの医師が自主的に手間や時間、お金をかけて資格の取得、維持をしています。医師をはじめとした医療従事者は休日を返上して自己研さんすることが当たり前のような風潮があります。自己犠牲を肯定はしませんが、患者のために努力し続けている医師は信頼できるのではないでしょうか。

専門医資格は必須になりつつある

今は医師4年目で佐久島診療所に勤務しています。医学生の頃は小児科医になりたかったのですが、初期臨床研修中に整形外科に興味を持ち、整形外科医を目指すことにしました。同期のほとんどの医師は専門医の資格を取ろうとしています。私は自治医科大学から課せられた、離島などのへき地で医療に従事する義務が9年あるので、それが終わったら専門医の資格を取るつもりです。最近の患者さんは専門志向が強く、資格を持っていることで患者さんにも安伊藤里奈医師|整形外科 心してもらえるということもあり、資格の取得は必須に近い印象です。

医局の存在 感じ方は人それぞれ

大学を平成21年に卒業し、公立陶生病院(瀬戸市)で初期臨床研修を受けました。研修医2年目で外科に進むことを決め、公立陶生病院の外科が所属している名古屋大学の医局に入局しました。同病院に同期の研修医は20人ほどいましたが、ほぼ全員が入局したのではないかと思います。入局のデメリットで勤務地を選べないといわれていますが、自分はさまざまな勤務先を経験できることが楽しいと感じています。医局の人事異動で市民病院に来ましたが、スタッフの雰囲気が良く、前向きに仕事に取り組めています。

救急の適正利用を

痛みやつらさの感じ方には個人差があるため、救急にかかる明確な判断基準はありません。我慢しすぎては手遅れになってしまいますが、あまり軽い症状でかかるのは問題です。1人の医師が同時に診ることができる患者の数には限りがあり、同時に多くの方が救急搬送された場合は受け入れできないこともあります。また、専門医が不在の際には、特定の症状を訴える患者の受け入れを断ることがあります。患者の安全を第一に考えた場合、専門医が診ることが最善だからです。急変が起こりやすい小児科や産婦人科などは24時間体制で医師が病院に常駐する必要があり、医師が多くない中小規模の病院では、一部の診療を制限することも珍しくありません。救急医療には限界があります。そのことを理解し、適正に救急を利用してください。救急にかかるか迷う時は「救急医療情報センター」を、子どもの急病で不安を感じたら「小児救急電話相談」を活用してください。

専門ダイヤルなどの活用も

我慢できないほどつらい症状があれば、迷わず救急に連絡して私たちを頼ってもらいたいです。でも、夜間に運ばれてくる患者さんから「何日も前から同じ症状があった」と聞くと、複雑な心境になります。 夜間の救急でできる処置は実はかなり限られていて、一時的に症状を抑えることがメインになります。体制が整っている時間帯に再度来院してもらって、検査や治療をすることになるので、体調的にも金銭的にも負担が増えることがあります。病院にかかるべきかの判断はなかなか難しいと思うので、電話相談できる専用ダイヤルなどを有効に利用してもらえれば、安心してもらえるのではないかと思います。

かかりつけ医という選択

かかりつけ医にかからず自己流の間違った対策をしていると、知らないうちに病気が悪化し、救急搬送されることがあります。救急病院は運び込まれる患者の細かい情報を持っておらず、日ごろの体調や持病の有無、服用している薬などの情報がないため、さまざまな可能性を考慮しながら検査や治療をします。その結果、時間を要することになり、病状が悪化してしまうこともあります。かかりつけ医は普段から患者を診ているため、治療に必要な情報を細かく把握しています。体調など何でも相談でき、症状が軽いうちにかかりつけ医に診てもらえば、早期に治療が受けられます。かかりつけ医で治療できない病気であれば、治療できる病院を紹介してもらうこともできます。

選択肢はたくさんある

以前は3次救急病院で勤務していました。地域の方とつながりを持つため、月に1回、市民病院の当直勤務をしています。市民病院には3次救急レベルの患者さんも搬送されることがあり、とても大変だと感じています。 皆さんには、ぜひ気軽に相談できるかかりつけ医を持ってもらいたいです。かかりつけ医は普段の患者さんの状態を把握しているので、適切な対応ができます。地域の病院もさまざまな医療を提供していて、私の病院では訪問診療なども行っていますし、電話相談に応じてくれる病院もあります。急な病気のときでも選択肢はたくさんあるので、一度考えてから医療機関にかかってもらうことをお勧めします。

事実を知ってほしい

市民病院には、あまり知られていないだけで、とても優れた医師やスタッフがいます。例えば、形成外科は間違いなく全国トップレベルの技術を持っています。当院の形成外科医は昭和大学の医局に所属しており、昭和大学が海外へ医療支援のチームを送った際には、そのメンバーに選ばれています。現地で行われた手術のうち半分は当院の医師によるもので、大学からの信頼も厚い最高の医師といえます。 他にも、3次救急病院での経験豊富な循環器内科医師2名が当院に赴任してきました。これだけ医師が充実している病院は珍しく、県内有数といえます。医師以外にも学会などで活躍する優秀なスタッフが多くいますので、そういった事実を知ってもらえれば、市民病院に対する皆さんの印象が変わると信じています。

「事実」に目を向ける

市民病院で働く医師や看護師などの医療従事者は、毎日、多くの患者と真剣に向き合い、この地域の医療のために最善を尽くしてくれています。そのことは間違いのない事実です。市民病院にかかったとき、実際に不快な思いをした方もいるでしょう。しかし、そのときの背景まで知っていることはほとんどありません。医師がじっくり話を聞いてくれなかったのは、すぐに診なければいけない患者が待っていたからかもしれません。救急で長時間待たされたのは、何人もの患者を同時に診ていたからなのかもしれません。病気が悪化したのは、どの医師が診ても同じ結果だったのかもしれません。

市民病院があること

もしも市民病院がなかったら、この地域の医療はどうなっていたのでしょうか。周辺の病院にかかることで不都合はなかったかもしれません。ただ、確実なのは市民病院が受け入れていた患者を周辺の病院が受け入れなければならなかったということ。果たしてそれは可能でしょうか。この地域で西尾市民病院が果たしている役割は他の病院で簡単に穴埋めできるものではありません。

正しい判断

うわさや印象ではなく「事実は何か」を知ることが、正しい判断につながります。禰冝田院長のインタビューの最後に、ある依頼がありました。それは「記事のどこかにコロナ禍での職員のがんばりを書いてほしい」というもの。「病院職員本人やその家族が、いわれのない誹謗中傷を実際に受けた。そんなことがもう起こらないようにしたい」。その誹謗中傷は事実に基づく正しい判断といえるでしょうか。うわさや印象だけで判断していないでしょうか。コロナ禍でなくとも、根拠のないうわさによって、心を痛めている人がいるかもしれません。そのうわさを信じる前に、事実は何かに目を向ければ、きっと正しい判断ができるはずです。

市民病院のいま(広報にしお 2020年10月号)